
今回は、我々歯科医が診療室でよく聞かれる話題です。
「あと、何回で治療終わりますか?」
我々歯科医が、患者さんにたまに聞かれてとても憂鬱になる言葉です。
インターネット上を見渡すと「金儲けのために、何度も通わせている!」という口コミも散見されます。
歯科医院で治療に回数がかかる理由は、その方の言うように、お金儲け目当ての歯医者の闇なのでしょうか?
結論から書きますと、
「全然違います!」
「あそこの歯医者は、金儲けのためにわざと何度も通わせるから」と思ったという理由で歯科医院を変えても、(少なくとも保険診療でお金儲けしたい!という理由では)通院回数はどこのクリニックも似たり寄ったりで変わりません(正確には、変えたくても、変えられません)。
まぁ、治療の途中で転院すれば、そこまでの治療は終わってるので、体感で少ない回数で終わった気にはなるかもしれませんが。。。
しかし、クリニックを変えると、初診料や検査料が改めて必要になり、通院回数も却って長くなる結果になりかねません。
理由は後述しますので読んでくださいね。
こちらのブログを熱心に読んでいただいているあなたには、「正しい歯医者の通い方」を知っていただき、賢く歯医者に通院するようにしていただきたいです。
理由.1 治療そのものに時間がかかる

歯の治療で回数がかかる治療の代表例は、「歯の神経の治療/根管治療」です。
歯の痛みや歯肉の腫れをとるために、歯の神経の除去や、神経の除去をした根の清掃をします。
特に手の届きづらい奥歯は、治療がしづらい上に、前歯に比べて歯の根が多く複雑で、しっかり治療完了するまで期間・回数がかかる治療です。
1本の歯の治療で数ヶ月かかる事もあります。
その上、治療が滞りなく進んでいても、痛みや腫れが改善されない事もままあり、
「なんで神経を取ってるのに痛むのですか?」
と、トラブルにもなりやすいです。
当院では、神経の治療の前に、必ずなぜ治療が必要か、治療後の経過(治療後に痛みが出たり、治療に回数がかかる事)などを説明し、同意書に記載していただいてから治療をしています。
それでも「あと何回で終わりますか?」と聞かれてうなだれたりしますが。。。。

さて、根管治療は、歯科保険治療ではとりわけ診療報酬が低い事で悪名高く、「金儲けのために長引かせる」という事はありません。
むしろ、ほとんどの先生は「早く終わらせたい!」と考えています。
長引けば長引くほど、赤字なのですから。。。
しかし、治療終了後に痛みや腫れが再発したり、経過不良で抜歯につながってしまう事もあるため、治療終了の判断の見極めが難しい治療です。
「根管治療をすぐに終わらせてくれる先生=良い先生」と一概につながらない事も知ってください。
経過がすこぶる良いと判断できれば、早期に治療終了できる事も、もちろんありますが。。。

さて、つらく長い歯の神経の治療ですが、
「治療後の定期メンテナンスに来院する事で、ほぼ回避可能」です。
歯の神経の治療の原因のほとんどは、虫歯です。
大きな虫歯でも見た目にはわからなかったり、無症状の事もありますので、症状があるなしでの判断は禁物です。
強く痛んだ時は、多くの場合、神経の治療が必要になります。
神経の治療をした歯の寿命はかなり短くなります。
年に数回メンテナンスに来院して、お口のお手入れをし、怪しい部分はレントゲン写真で確認して、虫歯を初期段階で喰いとめる・・・を欠かさずにしていれば、神経の治療になるような事はほぼありません。
症状があるまで来院せず、長くつらい神経の治療が必要になり、銀歯を被せ、やがて抜歯、入れ歯という患者さんが未だになんと多い事か。。。
理由.2 保険診療のルールの問題

歯科保険診療の代表的なルールブックです。
昔の電話帳サイズでびっちり細かく記載があり、またこのルールは2年ごとに更新されます。
ほとんどの患者さんが意識されないでしょうが、保険診療では、厳格なルールが決められており、
一回の受診で治療できる範囲も決められています
クリニックを変えても、保険診療のルールは全国一律、変わらないですから、上記の患者さんは、他のクリニックでも、同じようなお話になってしまうのです。
法律と同様、保険診療のルールは膨大で複雑怪奇・理不尽なところも多く、一言で語りつくせませんが、おおまかなルールを知っていただくと、受診の参考になると思います。
大前提として、知って欲しいのが、保険診療は「病気の治療」


まず、大前提として、「保険診療は、病気の治療」に適応されます。
病気と診断するには、診査が必要になります。
虫歯であれば、主にレントゲン撮影ですね。
「見て明らかだから」「レントゲンを撮りたくない」という理由で、スルーする事はできません。
歯周病であれば、歯肉の周りをチクチクする、歯周ポケット検査です。
歯石除去は、歯周病の診断の上で行いますから、「痛いからやりたくない」という理由で、スルーする事はできません。
また、歯の着色除去など見た目だけの改善は病気ではありませんので、保険診療で処置する事はできません。
歯石除去に回数がかかるわけ

「初めてなのですが、歯石除去を受けたいんですけど」
「そうでしたか、保険診療ですと、まず検査が必要なのと、お口の中全体を歯石除去するためには何回か通院してもらう必要があります。」
「???一回で終われないのですか?」
「はい、ルール上、お口の中全体の歯石除去を一回で終わらせる事はできません。一回で一気に終わらせる治療をご希望でしたら、治療制限のない保険外診療扱いでお受けします」
「・・・。じゃ、結構でーす。ガチャッ」
よくある初めての患者さんとの電話やりとりの例です(その人、その後、どうしてるのかなとよく思いますが)。
歯周病の治療の目的で行う歯石除去は、厚生労働省の決定したガイドラインで一回の治療で行える範囲が決められています。
「歯石除去は、最短でも2回以上通院する」
というのがガイドラインです。
ルールですので、
「急いでいるからスピード違反してもいい」とならないように、患者さんの個々の事情などは考慮されません。
ですが、1回でお口の中全体の歯石除去できる場合もあります。
治療後の定期メンテナンス時です。
これにも複雑なルールがあるので、詳細は割愛しますが、治療終了後の定期メンテナンス時は「継続治療」という形で1回で可能です。
ですが、受診期間が空いたり、引っ越しなどで他院に移ったりすれば、定期メンテナンス終了、初診扱いで振り出しに戻るため、定期メンテナンスはリセットされ、歯石除去に何度も通うという形になります。
虫歯治療に回数がかかるわけ

かたや、虫歯治療には、「1回に〇本まで!」という歯周病治療ほど厳格なルールはありません。
しかし、ほとんどのクリニックで虫歯治療は、1度の治療が30分程度で1-2本くらいの治療になっていると思います。
これにも理由があります。
通院されている患者さんは知らない事ですが、
日本の歯科医療では、
「患者さんのひと月で払う保険歯科治療の治療費の平均が4,000~5,000円程度(3割負担の場合)になるように制限されている」のです。
これを越える状況が続いたクリニックは、行政指導を受けます。
「どこの歯医者も、再診料稼ぎに何度も患者を通院させる」というのは、事情を知らないがゆえの陰謀論です。
想像してみてください。
一人の患者さんに5本の虫歯治療をするのと、5人の患者さんに5本の虫歯治療をするのはどちらが効率がよいでしょうか?
5人に分けて余計に入る再診料は2,000円程度ですが、患者さんの導入、器具の入れ替え・滅菌、会計・次回の予約とりと、労力とコストは格段に増えます。
その時間で、もっと多くの虫歯を治療する事ができるでしょう。
儲けの事を考えたら、一人の患者さんにまとめて治療した方が、ずっと楽なのです。
虫歯治療集中治療のご提案
完全自己負担の保険外診療であれば、これらの制約なく、自由に治療を受ける事が可能ですが、多額の費用がかかります。
一度に処置できる範囲が明確に決められている歯周病の治療は保険外治療でしかどうにもなりませんが、虫歯の治療の関しては、たくさんの虫歯がある患者さんに出来る限り費用負担を抑えてまとめて治療する「集中治療コース」をも提案しています。
これは、通常の保険診療の費用に加え、30分5,000円の予約料を支払っていただく事により、まとめて虫歯治療をするコースです。
逆に、「少数だけど、虫歯治療を時間をかけてゆっくり受けたい」という方にもおすすめしています。
できるだけ費用を抑えて時間をかけた治療を受けたい方は、ご検討・ご相談ください。
詳しくはこちらへ
https://kp-dental.com/personal
※予約料の徴収は関東信越厚生局に届け出を提出、受理されたもので、保険診療のルールに則ったものです。
結局、結論はいつも同じ。。。

歯医者の通院回数を交通手段に例えると、
保険治療は、「各駅列車」です。格安料金で移動できますが、駅まで移動する必要がある、目的地によってはすごく時間がかかったり、遠回りをさせられたり(治療回数がかかる)、満員電車に遭遇したり(つめつめの診療時間)、と制限があります。
小回りが利き、快適に移動したい、できるかぎり時間を短縮したいという事であれば「タクシーや特急列車(自費診療)」を使う必要があります。
- 時間や治療の制限を受け入れて、格安で治療を受ける(保険診療)
- お金がかかっても、制限なく治療を受ける(自費診療)
と考えていただければと思います。
そして、
どちらで治療を受けようとも、定期メンテナンスで治療後の状態を維持していただく事が、将来、一番費用と時間を抑える近道になります。
虫歯や歯周病は、風邪のように「ある日突然発症した」という事はありません。
症状がない状態から、時間をかけて少しずつ進行し、ある日突然症状として現れるのです。
夏休みの宿題と同じで、長い期間何もせず「あとで一気に取り戻そう」というのが一番辛いのです。
歯医者の通い方、改めてみませんか?