虫歯の治療を受けてる時、
「今、どんな事をされているんだろう?」と疑問に思われるかと思います。
例えば、スポーツの試合を見る場合。
ただ、試合の勝ち負けを見るだけより、その試合に賭ける選手たちのバックボーンを知ると、より試合に感情移入できると思います。
虫歯の治療も
「術者がどんな事を考え、どんな処置をしているのか」
をある程度知ってもらえると、
「ただただ、ツライ、早く終わって欲しい」
と口を開けているよりも少しは楽になるのではないでしょうか。
ここでは、虫歯の治療の進め方を詳しく解説します。
実際の治療の進め方
他の虫歯の治療のブログでも紹介した症例を例に紹介します。
歯と歯のすき間が大きな虫歯になっているのが分かります。
レントゲン写真で虫歯の状況を確認すると、赤い線のように虫歯になってるであろう事が予測できます。
タービン
まずここで登場するのが、歯医者でおなじみの「キーン」という音がする、「タービン」という機械です。
高速回転するため、主に歯の固いエナメル質の部分を削ったり、金属を削って除去する際に使います。
まずはタービンを使って、金属の除去と、大まかに虫歯を削るところまで進めます。
ショベルカーのイメージです。
余談ですが、歯を削る時に、注水するのは何故でしょうか?
それは、高速回転するために、歯を削る時に発生する熱を冷やしているのです。
という事で、お水を出さずに歯を削り続けると、焦げ臭くなったりします。
熱が発生すると、虫歯の治療後の痛みの原因となる事もありますので、注水は必須です。
切削力が強いため、少ない力で歯を削れ、不快な「キーン」という音以外の患者さんの負担は少ないのではないでしょうか。
タービンの特徴
動力源 | 高圧空気 |
回転数 | 高速 |
切削力 | 強い |
用途 | 資質の切削、金属の除去など |
メリット | 高速で効率的、固い歯質や金属も削れる |
デメリット | 熱が発生しやすい 歯髄にダメージを与える可能性がある |
金属を外して、ある程度虫歯を除去したところです。
金属の下にしいてあるセメントも劣化してますので、中が虫歯になっていないかどうか、セメントも除去して調べます。
セメントまで除去したところです。
神経まで近い、かなり深い虫歯になっているのがわかります。
ここからは別の器具も併用して、虫歯を除去します。
コントラ
ここで、コントラという器具も併用します。
これは、タービンに比べて低速で回転します。
タービンが力を入れなくてもエナメル質をガンガン削れてしまうのに対し、コントラは虫歯に感染した歯を中心に削れ、固いエナメル質の部分はほとんど削れません。
つまり、歯に優しい治療といえます。
しかし、低速回転ゆえに、振動が響きますので、患者さんはすごく大きく削られてる感覚があるかもしれませんが、実は逆で、時間をかけてゆっくり虫歯を除去しているのです。
イメージは人が操作する電動ドリルでしょうか。
コントラの特徴
動力源 | 電気モーター |
回転数 | 低い |
切削力 | 弱い |
主な用途 | 歯の神経付近の切削 |
メリット | 歯に優しい タービンより繊細な作業が可能 |
デメリット | 振動が大きい 時間がかかる |
エナメル質付近はタービン、深めの虫歯の部分はコントラを使って、丁寧に虫歯を除去します。
8~9割ほどの虫歯が除去できたかというところですが、
赤く染色されている部分などがまだ虫歯が残っている部分です。
エキスカベーター
いよいよ神経に近い虫歯まで到達しましたので、手で操作するため、より繊細に虫歯を除去できるエキスカベーターを使用します。
イメージはスコップです。
エキスカベーターは先端がスプーン状になっているものや、小さいものなど、様々な形状があり、虫歯の除去の際は、歯を傷つけないように先端が丸みを帯びているスプーンエキスカベーターを使う事が多いです。
使用方法は、スコップで地面を掘るのと同じ要領で、少しでも余分に歯を削らないように、時間をかけて虫歯を除去します。
エキスカベーターを使ってほぼ全ての虫歯を除去したところです。
幸い、神経寸前で虫歯はとどまっていましたが、お薬を詰めて、しばらく経過観察します。
その「5分」が命取り!
ここまでご覧になって、より精密な治療を行うには、色々な器具を使い分けながら時間をかけて治療をする必要がある事がイメージついたでしょうか。
歯科医院に通う患者さんのほとんどは責任感のあるしっかりした方なのですが、ごくまれにですが、時間にルーズな方がいます。
中には、5分くらいの遅刻であれば、遅刻のうちに入らない感覚の方もいました。
今回紹介したような虫歯の処置で、一般的に確保できる予約時間はどれくらいでしょうか。
保険診療であれば、最大30分が相場です。
その30分は、患者さんをチェアに通して、治療終了して器具を片付けて、次の患者さんを通すまで、です。
チェアに座っている時間は25分くらい、麻酔を聞かせる時間を5分として、純粋な虫歯治療に避ける時間は最大で20分弱というところです。
そこで、患者さんが5分遅刻してきたとしたら、どうでしょう。
正味15分で虫歯治療を終わらせないと、次の患者さんの治療に響いてしまいます。
さぁ、その5分をどこで短縮するか。
それは、コントラやエキスカベーターを使った丁寧な虫歯の除去を捨てて、タービンで一気に虫歯の治療をするなどして、治療時間をなんとか短縮するしかありませんが、それが良い治療になるはずがありません。
それによって、術後の経過も変わってくるかもしれません。
でもそれは誰のせいでしょうか?
「5分でも遅刻したら、その日の診療はしません」という先生もいらっしゃいますが、その真意もわかると思います。
遅刻をする方は、ご自身で良い治療を受ける機会を放棄しているのです。
口には出さないでしょうが、良い治療をしたいと考えているクリニックのスタッフには確実に嫌われます。
良い事は何もないです。
歯科治療時に失った5分を取り戻すのは容易ではなく、何かを犠牲にしています。
こちらを読んでる皆さんは、そのような事がないように気をつけてくださいね。