
歯周病と糖尿病は双方向の関係

糖尿病といえば「血糖値の病気」、歯周病といえば「歯肉の病気」。
一見、まったく病気のように思われるかもしれません。
しかし、実はこの2つの病気はお互いに影響し合う「双方向の関係」にあることが多くの研究で明らかになっています。
どちらも「慢性炎症性疾患」に分類され、互いに悪影響を及ぼす「双方向の関係」にあります。
一方の治療がもう一方にも良い影響を与えるため、両方からのアプローチが必要です。
高円寺PAL歯科医院の歯周病の治療のページ
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歯周病を簡単におさらい
歯周病は、歯と歯ぐきの境目にある歯周ポケットにプラーク(細菌の塊)が蓄積し、炎症を引き起こす病気です。進行すると、歯を支える骨(歯槽骨)が溶け、最終的には歯が抜けてしまいます。
初期には歯ぐきの出血や腫れといった軽い症状しか出ませんが、痛みが少なく進行するため“沈黙の病”とも呼ばれています。
日本人の成人の約80%が歯周病に罹患しているといわれ、特に中高年では重度の患者も少なくありません。
糖尿病とは?
糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)の濃度が高い状態が続く病気です。
通常、食事によって摂取されたブドウ糖は、膵臓から分泌される「インスリン」というホルモンによって細胞に取り込まれ、エネルギーとして利用されます。
しかし、インスリンの分泌が不足したり、インスリンがうまく働かなくなったりすると、ブドウ糖が細胞に取り込まれず、血液中に溢れてしまいます。これが高血糖の状態です。
高血糖の状態が長く続くと、全身の血管や神経が障害され、様々な合併症を引き起こします。
糖尿病の三大合併症として知られるのは、神経障害、網膜症、腎症ですが、その他にも動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、そして歯周病も重要な合併症として位置づけられています。
糖尿病の種類
1型糖尿病
自己免疫疾患などにより、インスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンがほとんど分泌されなくなるタイプです。
2型糖尿病
日本人の糖尿病のほとんどがこのタイプです。
遺伝的な要因に加え、過食、運動不足、肥満、ストレスといった生活習慣が原因で、インスリンの分泌量が不足したり、インスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性)タイプです。
1型糖尿病 | 2型糖尿病 | |
原因 | 自己免疫によりインスリンを作る細胞が破壊される | 遺伝的要因 + 生活習慣(肥満、運動不足、食べ過ぎなど) |
インスリン | ほとんど作られない(絶対的不足) | 作られているが効きが悪い、または量が少ない(相対的不足) |
発症時期 | 小児・若年者に多いが、どの年齢でも発症しうる | 中高年に多いが、最近は若年層も増加 |
発症の速さ | 急激に発症することが多い | ゆっくりと進行し、自覚症状がないことも多い |
治療の中心 | インスリン注射が必須 | 食事療法・運動療法が基本。 必要に応じて飲み薬、インスリン注射 |

糖尿病が歯周病を悪化させるメカニズム
糖尿病で血糖値が高い状態が続くと、以下のような影響で歯周病が悪化しやすくなります。
免疫力の低下
血糖値が高いと、体内の免疫機能が低下し、細菌に対する抵抗力が弱まります。
これにより、歯周病菌が繁殖しやすくなり、歯周病が進行しやすくなります。
血管の損傷
糖尿病は全身の血管を傷つけやすく、歯肉の毛細血管も例外ではありません。
血管が傷つくと、歯ぐきに必要な栄養や酸素が届きにくくなり、歯ぐきの修復力が低下して歯周病が悪化します。
唾液の減少・質の変化
糖尿病になると、唾液の分泌量が減ったり、唾液中の糖分濃度が上がったりすることがあります。
唾液には口の中をきれいに保つ自浄作用や抗菌作用があるため、これが低下すると歯周病菌が増えやすくなります。
歯周病が糖尿病を
悪化させるメカニズム
歯周病が進行している方は、以下のような影響で糖尿病も悪化しやすくなります。
インスリン抵抗性の悪化
歯周病による慢性的な炎症は、体内で炎症物質(サイトカインなど)を放出します。
これらの炎症物質が血液に乗って全身に運ばれると、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きを妨げてしまいます。
これを「インスリン抵抗性」といい、血糖値が下がりにくくなり糖尿病が悪化します。
全身への影響
歯周病菌やその毒素が血管を通じて全身に広がることで、全身の炎症反応が増強され、糖尿病だけでなく動脈硬化や心血管疾患などの合併症のリスクも高める可能性があります。
実際の研究・データで見る関連性
糖尿病患者は健常者の2〜3倍、歯周病が重度化しやすいというデータが出ています。
歯周病患者の治療を行ったことで、HbA1cが平均0.3〜0.6%改善したという研究結果も複数報告があり、日本糖尿病学会では、歯周病は糖尿病の「第6の合併症」と位置づけられています。
糖尿病を治療すると、
歯周病にどのような影響があるのか?
糖尿病の治療が進み、血糖コントロールが改善すると、歯周病の状態にも非常に良い影響が現れます。これは、これまで説明してきた「糖尿病が歯周病を悪化させるメカニズム」が逆転し、歯周組織が本来持つ回復力が引き出されるためです。
免疫機能の回復
糖尿病の治療により血糖値が安定すると、免疫機能が回復し、歯周病菌への抵抗力が高まります。
血管機能の改善
血糖値が改善すると、血管への負担が減り、血管の機能が回復に向かいます。これにより、歯ぐきに必要な酸素や栄養がしっかりと供給され、歯周組織の健康が保たれやすくなります。
唾液の状態の改善
血糖コントロールが良くなると唾液の分泌量も改善することがあります。
唾液には口腔内を洗い流す自浄作用や、抗菌作用があるため、唾液が増えることで歯周病菌の繁殖が抑えられます。
また、高血糖状態では唾液中の糖分濃度も高くなることがありますが、血糖値が下がるとこれも正常に戻ります。
口腔内の糖分が減ることで、歯周病菌が栄養源とする糖が減り、菌の活動が抑制されます。
歯周病を治療すると、
糖尿病にどのような影響があるのか?
歯周病は、歯ぐきの炎症が口腔内にとどまらず、全身に影響を及ぼす「全身性疾患」としての側面を持っています。
全身の慢性炎症の原因
歯周病が進行すると、歯周ポケットの中で大量の歯周病菌が増殖し、体はそれらと戦うために様々な炎症物質(サイトカイン)を放出します。
これらの炎症物質は、歯周ポケットの血管から血液に乗って全身に運ばれていきます。
歯周病を治療し、歯周ポケット内の細菌や炎症が減少すると、これらの全身を巡っていた炎症性サイトカインの量も減少します。
この炎症性サイトカインは、血糖値を下げつホルモンであるインスリンの働きを邪魔するため、結果としてインスリンが効率よく血糖値を下げられるようになり、血糖コントロールが良くなります。
歯周病菌やその毒素の全身への影響の抑制
歯周病治療によって歯周ポケットが清潔になり、歯周病菌の量が減少する事で、全身への悪影響が抑えられます。
歯周病治療と糖尿病治療の
相互アプローチが大切
歯周病治療と糖尿病治療の「相互アプローチ」は、単に「お口の健康を守る」だけでなく、「全身の健康を守り、生活の質を向上させる」ための重要な方法です。
糖尿病患者さんは、歯科医院での歯周病検査を受ける事を忘れずにいてください。
そして、歯周病との診断を受けましたら、内科医との連携を促しながら、両方の治療に積極的に取り組んでください。
この相互アプローチこそが、糖尿病と歯周病という二つの病気を効果的に管理し、合併症のリスクを減らすための鍵となります。